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最高裁判所第三小法廷 昭和25年(れ)1781号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人松本茂の上告趣意は、末尾に添えた書面記載のとおりであって、これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

本件雨外套の価格につき統制額を指定した昭和二二年物価庁告示第一〇四七号は、今日でもなお廃止されていないばかりでなく、所論の昭和二四年一一月二一日通商産業省告示第一〇五号は、衣料品配給規則第一条第一項の規定による繊維製品の指定に関するものであって、前記統制額の廃止とは全く関係のないものである。それゆえ、右統制額の廃止されたことを前提とする所論は理由がない。

次に、原審は、被告人が本件雨外套を配給割当公文書と引換えないで買受け、販売した各所為に対して、臨時物資需給調整法第四条第一条、衣料品配給規則第五条を適用したこと、並びに衣料品配給規則第一条第一項の規定による繊維製品の指定に関する昭和二二年九月商工省告示第五八号が、昭和二四年一一月二一日通商産業省告示第一〇五号、昭和二五年一月二三日同省告示第六号等によって改廃せられ、また昭和二五年九月二〇日の各通商産業省令によって衣料品配給規則の一部が施行停止となり、一般衣料切符制度が全面的に停止になったことは所論のとおりである。論旨は、この場合旧刑訴第三六三条の「犯罪後ノ法令ニ因リ刑ノ廃止アリタルトキ」に該当し、本件については免訴の判決をすべきであると主張するのであるが、かりに本件雨外套が今日では全面的に統制繊維品の指定から解除せられたとしても、衣料品配給規則第五条及び昭和二二年商工省告示第五八号は臨時物資需給調整法に基いて制定せられたものであり、同法附則第二項には、同法律は一定の時期以後効力を失うと規定した上、「但し、その時までになした行為に対する罰則の適用については、この法律は、その時以後もなおその効力を有する」と規定しているのであるから、その趣旨からみると、右商工省告示の廃止および衣料品配給規則の一部施行停止は、その廃止または施行停止以前に行われた本件違反行為の可罰性に何ら影響を与えるものではなく、右に対しては臨時物資需給調整法所定の罰則に従って処断すべきものと解すべきである。所論のように旧刑訴第三六三条に従って免訴の言渡をすべきものではない。されば、この点に関する所論も採用することができない。

よって本件上告を理由ないものと認め、旧刑訴第四四六条に従い主文のとおり判決する。

以上は、当小法廷裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)

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